おじさんが怖すぎる——『パラサイト 半地下の家族』

※ネタバレです

 

パラサイトを観てからセンサーライトが怖くなってしまった。もちろん実際には地下室のおじさんがスイッチを切り替えている訳ではないと知っている。でも、現実に地下室のおじさんは至るところに存在する、ということも知っている。

たとえば、注文すれば当日中に届く荷物。24時間開いているコンビニ。ファストファッション。便利な生活の裏にある、顔の見えない無数の誰かによる労働を意識するのは居心地が悪い。生産者さんの顔なんて見たくない。誰かの(ときに搾取的な)労働の成果を享受して生きていることをいちいち実感したくない。

とはいえ、別に地下室のおじさんは不幸ではない。自分の置かれている立場を不遇だとも思っていない。多少不自由ではあるけど、Wi-Fiが入り、きれいなトイレがあり、豪雨でも水に浸からない部屋に住み、芸術を楽しむ心の余裕もある。「ここで生まれた気がするし、ここで結婚した気がする」と言う。*1そして富の源泉であるパク社長を崇拝する。

私には彼の生き方を否定も肯定もできない。というか自分自身を省みると、やっぱり会社や社会に守られ、誰かの富に寄生して生きていることを否定できないので、何も言えなくなってしまう。*2

結局、地下室のおじさんはギジョンを刺す。覆せない格差を前にして、争いが起こるのは下層社会の中だ。限られた雇用、限られたポジションを巡るデスマッチ。私もまた、よりよい地下室を求めてどこかのおじさんと殺しあう半地下の住民でしかない。

みなさん、今日もよく働いていますか? 将来の計画はバッチリですか? いま、幸せですか? 私には、オフィス街の光が全部「リスペーーークト!!!」と絶叫するおじさんとかぶって見えます。

*1:初見で『Us』っぽいと思ったけど、2回目観たときここで『コンビニ人間』だ〜ってなった。「私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今、自分が生まれたと思った」。貧と富の二項対立というよりは、一枚岩ではない下層社会の話なのだ

*2:私の心の中の小林多喜二は反抗していますが。労働者が働かねば、ビタ一文だって、金持の懐にゃ入らないんだ!!!